ザカートとはモスリムの義務であるイスラム五行の一つで、喜捨のこと。 財産に余裕のあるモスリムは、財産から一定比率の金銭や現物を喜捨することになっており、コーランにはザカートについての記述が度々登場する。モスリムにとって、サラート(礼拝)は言葉と動作によるアッラー崇拝の行為で、ザカートは財産による崇拝の行為とされ、イスラムの教えは精神的なものだけでなく、社会的活動の側面も含まれていることがわかる。
インドネシアにはBAZNAS(Badan Amil Zakat Nasional)という組織があり、そこに所属しているザカート担当者が各モスクを管轄しながらザカートを徴収し、必要な人に対して用いるようになっている。以下、インドネシアのモスリムのザカートの仕組みを簡単にご紹介する。
ザカートが義務となる人
ザカートの喜捨が義務となるのは成人の男女モスリムで、ニサーブ(ザカートの義務が発生する最低余剰財産)に相当する財産をイスラム暦で一年間所有した人だ。収入が多くても経費も多くてお金が残らないような場合はザカートは義務にならない。ザカートを行う人は任意に決算月を決めてニサーブの計算をする(断食月を決算月にすることが多い)。
ザカートが義務ではない人
ザカートは財産に余裕のない人は行わなくてよい。具体的には、以下に相当する人はザカートをする必要はない。
①財産がニサーブに満たない人
②判断能力を失っている人
③未成年
ザカートの対象となる財産
モスリムの財産のうち、ザカートの義務の対象となるのは以下の6種類の財産だ。これらを規定以上の額、一年間所有していた人は、ザカートで喜捨を行う。
①現金
②金および金製品
③銀および銀製品
④在庫商品
⑤家畜
⑥農作物(収穫毎)
喜捨する額は、現金は年収の2.5%、農産物、金、家畜は2.5%〜20%の割合となる。
なお、以下のような財産は、所有していてもザカートの対象とはならない。
①家庭用品あるいは個人の物品(家、衣服、食器、家具、自動車、パソコン、携帯、本など)
②販売目的以外の物品(借りている事務所、商用車、事務機器など)

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ザカートで喜捨を受ける
資格のないケース
ザカートで喜捨を行う人がいれば、喜捨される人もいる。以下は喜捨を受ける資格のないケースとされる。
①非モスリム
②預言者ムハンマドの直系の子孫
③ザカートで喜捨する人の祖父母、両親、配偶者、子ども、孫
④ザカート担当者以外の人の給料支払い目的
⑤裕福な親を持つ人
⑥故人の借金の返済目的
⑦葬儀費用目的
⑧モスクの建築目的
ザカートで喜捨を受ける
資格があるケース
以下のような場合はザカートで喜捨を受けることができる。
①貧困者
自分と家族の生活に必要な金銭がない人
②羅災者
災害で財産を失った人
③ザカート担当者
ザカート基金から給料が払われる
④イスラム改宗者
イスラムに改宗したために財産を失った人
⑤自由を束縛されている人
モスリムで人質や捕虜となっている人の身代金の支払い
⑥借金返済ができない人
必要経費の増大による借金の返済ができない人
⑦アッラーに奉仕する人
具体的には、布教活動を行なう人、イスラムについて研究する学者や学生、社会に有益な施設・組織を作る人(病院、孤児院、教育研究所、図書館、モスク、イスラム奉仕団体など)
ザカートの喜捨方法
ザカートで喜捨を行う時は自分自身に対してのニーヤ(意志)表示が必要となる。もしニーヤなしでザカートを行い、後から使った金額をザカートにしようとしてもできない。ただし、ザカートで喜捨する場合、喜捨される相手にそれがザカートであることを告げる必要はない。
なお、2018年の統計では、インドネシア中で38万5000人が喜捨を行い、636万9000人が喜捨を受けた。
※2020年7月号掲載