イスラムの教えでは、死は人生の終わりではなく、現世での行いが反映した来世とされている。コーランには「やがて彼を死なせて墓場に埋め、それからお望みの時に彼をよみがえらせる(80章21−22節)」とあり、埋葬の後に復活があることを意味している。復活するためには肉体が必要なため、イスラム教では火葬ではなく土葬する。
モスリムは誰かの逝去の知らせを受けると、「インナー・リッラーヒ・ワ・インナー・イライヒ・ラジウーン(まこと我らはアッラーのもの。まこと我らはアッラーの許へ帰るのだ)」と唱える。葬儀はイスラムコミュニティーにおける義務と考えられており、近隣の人や同じモスクに通う人が葬儀の準備を行い、進行を取り仕切る。
葬儀の流れ
イスラム教の教義では、死後24時間以内に土葬をすることになっている。葬儀の流れは次のとおりだ。
•洗体とカファン
モスクまたは病院で同性の親族、あるいは専門の業者が身体をきれいに洗浄する。配偶者の遺体や7歳以下の子どもの遺体を親が洗浄する場合は異性でも許される。洗体が終わると鼻の穴などに綿を詰め、遺体を白い布で覆い、手、足、頭を縛る。男性は3枚の布、女性は5枚の布で包む。この作業はカファンと呼ばれる。
•葬儀礼拝
葬儀の礼拝では、故人の遺体はメッカの方向に頭を向けた状態で置かれ、その前に祈りを捧げるイマーム(イスラム教の指導者)が立ち、その後ろに遺族や関係者が並び、礼拝を行う。葬儀の礼拝はモスリムが毎日行っている礼拝と似た内容だ。
•埋葬
葬儀の礼拝が終了したらすぐに遺体を墓地へ運ぶ。礼拝に参列した人が祈りの言葉を唱えながら遺体を運び、墓穴に安置する。体の右側を下にして、頭をメッカの方向に向ける。それから布を縛っていた紐をほどき、遺体に土をかける。土をかけ終わると墓にはさらに盛り土がなされる。その高さは、親指の先から小指の先までの高さだ。そこに石や小石を載せて水や花びらを振りかける。墓のどちらかの端もしくは両端に、印として墓石が置かれる。


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インドネシア独特の習慣「ターリラン」
ターリランとは一部のモスリムの間で行われる法事で、通常、亡くなってから3日、7日、40日、100日で執り行う。地域によっては1000日の法要を行うこともある。ターリランの習慣は、イスラム教伝来前のインドネシアで信仰されていたヒンドゥー教や仏教から来ており、コーランやハディース(イスラム教の預言者ムハンマドの言行録)には書かれていない。そのため、ターリランをビドア(イスラム的に正しい道から逸れた考え方・行為・物など)と考えるモスリムもいる。
モスリムの葬儀への参列
モスリムの知人が亡くなった場合、非モスリムの日本人でも葬儀や埋葬に参列することができる。イスラムの教えで故人は死後24時間以内に埋葬されるので、訃報を受けたらなるべく早く自宅を訪問し、故人と最後のお別れをする。日本的なフォーマルな喪服はインドネシアには特にないが、黒っぽい服装で行くのがいい。自宅近辺には道標として故人の名前が書かれた黄色い旗が立てられているのでそれに従っていく。
到着したら玄関などに置かれたカゴに香典を入れる。日本のような専用の香典袋はないので、普通の白い封筒を使い、記名はしない。香典の額は故人との関係において各自が決める。遺族には「サバールヤ(辛抱してください)」などのお悔やみの言葉を伝え、故人にもお別れを告げる。埋葬に参列する場合は、墓に盛り土がされたら遺族らと花びらを振りかける。故人を思う気持ちに人種や国籍、宗教の違いはないので、お別れやお見送りは悔いのないようにするといいだろう。
※2020年3月号掲載
