2021年4月号でご紹介した「栄光の1列車」特急アルゴブロモアングレック号について、新たなニュースです。6月1日から最高速度を5㎞/hアップした110㎞/h運転をスタートしています。2月10日のダイヤ改正でも100km/hから105㎞/hにスピードアップしたばかりですが、これにより、ジャカルタ~スラバヤ間は最速8時間29分運転(下り列車)を実現しています。2014年の北本線複線化以来、9時間キッカリという時代が長く続いていただけに、約30分の速度向上は目を見張るものがあります。インドネシア鉄道(KAI)による保線作業の努力と軌道改良の賜物です。
同時にもう一つ、「乗り鉄」にとってうれしい話題が飛び込んできました。なんと、このアルゴブロモアングレック号に限り、長らく中止されていた食堂車での車内調理が復活したのです。日本でも一部の観光列車を除いて姿が消えて久しい食堂車ですが、冷房化を理由に世界的にも本来の意味での食堂車は少なくなりつつあります。窓も扉も全開にして、豪快に中華鍋で炒めるというのはアジアの鉄道の風物詩ではないかと思うのですが、窓が密閉され、さらに火災対策という安全上の理由から、今ではほとんど見られなくなりました。タイ国鉄では数年前に、一部の列車を除いて、食堂車そのものの連結がなくなりました。
インドネシアも同様で、車内調理が廃止されてからは、客車区脇の調理小屋で作ったナシゴレンやアヤムゴレンなどを保温コンテナに積み込み、電子レンジでチンして提供というスタイルが続いていました。それでも食器を使って提供され、食堂車としての風格を保っていました。しかし、効率化の流れで2014年頃から味気ないプラスチック容器入りの弁当になり、さらに2016年頃からは冷凍食品を使うようになり、味も品質も大幅に劣化。これには利用者からのクレームも多く、後にフローズン弁当と共にチルド弁当も用意されるようになりました。しかし、わざわざ食堂車に行って食べる必要性もなく、どうせ弁当はカートに積み込まれ車内販売されてくるのですから、座席で食べるので十分でした。私ですら、食堂車に行く機会もめっきり減っていました。

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それが今回、食堂車での調理を再開するというのですから、乗らないわけにはいきません。北本線沿線に出かける用事はあまりないので、ソロからの帰り道、一旦スマランに出て、アルゴブロモアングレック号に乗ることにしました。ちなみに、この日乗車した、スマラン・タワン駅を12時34分に出るガンビル行き特急アルゴブロモアングレックは、正真正銘の1列車です。食堂車で調理されるメニューは、Nasi Goreng Parahyangan、Nasi Rames、Mie Godok Java、Selat Soloの4品で、ここは名物Nasi Goreng Parahyanganと決め、食堂車に直行したのですが、なんと完売。残っているのはSelat Soloのみでした。ここまで来てチルド弁当を食べても意味がないので、Selat Soloを注文。どんな料理が出てくるでしょうか。もちろん、ゼロから調理するわけではなく、ある程度準備されたものを電磁調理器で炒めたりゆでたりするだけですが、レンチンと比べれば味の差は明らかでしょう。
ついにお待ちかねのソロの肉入りサラダ、Selat Soloが出てきました。肉が入っているので値段はちょっと高めの4万5000ルピア。紙容器なのが残念でしたが、肉は予想を裏切り非常にやわらか。これが車内調理の実力か!? 野菜も鍋でゆでていると思われ、冷凍野菜とは比べ物にならないおいしさです。しいて言えば、これでご飯もセットされていれば完璧だったのですが、ポテトを主食の代わりとしましょう。次回は始発駅から乗って、王道のNasi Goreng Parahyanganを注文したいですね。




高木聡(たかぎ さとし)
神奈川出身。2012年7月よりジャカルタ在住。
中古電車がジャカルタに渡ったことをきっかけに2009年にインドネシアを初訪問し、当地の魅力にハマって移住。横浜線は物心ついた時から当たり前の存在。今はその中古車両に揺られ通勤するという不思議な日々。
※2021年8月号掲載