新型コロナウイルス感染拡大による不要不急の活動自粛で運輸業を含む観光業が受けたダメージは計り知れません。今回は、コロナ禍で大打撃を受けたインドネシア鉄道(KAI)の2020年の輸送人員の変化と社会状況を振り返ります。
年末年始利用者数8割減
KAIは2020年12月18日から2021年1月6日の年末年始輸送実績が前年比で82%減少したと発表しました。年末年始はレバランに次ぐ書き入れどきです。しかし、通常の4分の1程度の約100本しか運行していないにもかかわらず、残席多数という状況でした。レバラン休暇の振り替え休日で年末年始は約1週間半の連休になる予定でしたが、感染者数増加で急遽撤回されました。KAIは形の上では民間会社ですが国の傘下にあるので、全列車運休という選択肢もあったはずですが、運行を続けたのは、これ以上列車を止めては会社が持たないという事情もあったのではないかと思います。
レバランは定期列車が1本もなし
2020年4月、コロナ禍でも通常運行を掲げていたKAIが突如、1日からの大幅な運休に踏み切りました。その数243本、約半数の列車が走らないことになりました。駆け込み需要阻止のためか事前の公式発表はなく、当日朝に発表する異例の対応でした。さらに、4月下旬に断食月に入ると、早期帰省を防ぐため、運輸省は国内の州境をまたぐ長距離交通を全て運休にすると発表。しかしこれは業界からの反発があったのか、数日後に撤回されました。それでもKAIでは5月から6月上旬まで全ての定期旅客列車の運行を取りやめ、代わりにジャワ島管内に日に3往復の臨時列車(乗車には乗車申請レターが必要)を設定。KAI最大の繁忙期のレバランに1本も定期列車が運転されなかったことになります。一方、運輸省の方針転換で飛行機やバスは運行が継続され、マイカー規制もほぼ有名無実だったことからレバラン帰省は事実上容認され、中部ジャワや東ジャワで感染が拡大しました。

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まだまだ低い利用率
6月下旬以降、ジャカルタ発着の列車は運転再開しつつありますが、利用は低調です。スカルノハッタ国際空港の国内線利用者数が多い時には前年の5割弱まで回復しているのに比べ、鉄道利用者の回復は遅い印象です。鉄道及び航空機に乗車、搭乗の際には指定日数以内の迅速抗体検査の取得が義務付けられています。利用者の便宜を図るため、6月から主要駅にて特別価格で迅速抗体検査を提供(2021年1月時点で10万5000ルピア)していますが、競合の高速バスはこの義務付けがなく、利用者が流れています。
2021年1月からは、前回ご紹介したソロやミナンカバウの空港線を含む一部の列車が運転再開しており、これで域内で完結する普通・快速列車はほぼ平常通りの本数に戻りました。しかし、長距離特急・急行列車の先行きは不透明です。現在、迅速抗体検査の取得義務に加え、座席の間隔空けとマスク着用義務も徹底しており、車内感染はしにくい状況です。利用者が少ない今こそ、ぼーっと車窓を眺めながらの一人旅で、インドネシアの鉄道を応援するのもよいかもしれません。




高木聡(たかぎ さとし)
神奈川出身。2012年7月よりジャカルタ在住。
中古電車がジャカルタに渡ったことをきっかけに2009年にインドネシアを初訪問し、当地の魅力にハマって移住。横浜線は物心ついた時から当たり前の存在。今はその中古車両に揺られ通勤するという不思議な日々。
※2021年2月号掲載